本ページでは企業の資金調達コストを測定する財務指標【WACC】についてわかりやすく解説します。
計算式や目安となる数字、WACCを良化するための方法など気になるポイントをまとめてお届け!
WACC(加重平均資本コスト)とは?意味と計算式を解説
WACC(加重平均資本コスト) | |
---|---|
指標分類 | 収益性 |
意味 | 企業の資金調達コスト 確保すべき収益率の最低ライン |
計算式 | 負債コストと株主資本コストの加重平均 |
目安 | 6.1% |
改善方法 | 経営戦略に負債を組み込む |
算出に 必要な 財務諸表 |
BS:有利子負債 |
PL:支払利息 | |
CF:必要なし | |
英語名 | Weighted Average Cost of Capital |
企業の収益性を評価する上で欠かせないWACCは企業の資金調達コストを測定する指標です。
日本企業において、無借金かつ完全に自己資本で経営している企業も少なくありませんが、大半の企業は銀行や株主からの出資を頼って経営していますよね。
その際に企業が利害関係者から資金を調達する際にかかるコスト、逆に言えば銀行や株主がお金を貸す代わりに貸付企業に求める見返りこそがWACCの数字です。
仮にWACCの数字を割り込む収益率しか出せない事業は、銀行や株主の期待を下回っていると言えるでしょう。つまり、WACCは企業が確保すべき収益率の最低ラインとしても機能します。
経営者目線で考えるともちろんWACCの数字は小さいほうが好ましいですよね。より安い金利で多額のお金を借りられる方が資金のやりくりが楽になりますから。
WACCを求める際は負債コストと株主資本コストの加重平均で計算することができます。
負債コストは銀行や債権者からお金を借りる際のコスト。株主資本コストは株主からの出資に必要な調達コストです。
次章ではこれら2つのコストの意味や計算式について確認していきましょう!
WACCの計算で必要な負債コストと株主資本コストを解説
WACCの計算で必要なコスト
【WACC】負債コストとは?銀行や債権者への調達コスト
負債コスト | |
---|---|
指標分類 | 収益性 |
意味 | 銀行や債権者から調達する資金に対して 企業が毎年支払いを約束しているコスト(利息) |
計算式 | 負債コスト = 支払利息 ÷ 有利子負債 |
目安 | 0.4% |
改善方法 | 有利子負債あたりの支払利息を少なくする |
算出に 必要な 財務諸表 |
BS:有利子負債 |
PL:支払利息 | |
CF:必要なし |
負債コストとは、借金に対する利息の割合です。
銀行や債権者からお金を借りる条件として企業が毎年支払うことを約束している利息の割合とも言えるでしょう。
計算式は非常に簡単。BSの有利子負債とPLの支払利息の値を割り算するだけで算出可能です。
日経平均株価を構成する日経225の負債コスト平均はわずか0.4%。
少なくとも大企業に限って言えば、銀行や債権者から非常に低い利息(金利)でお金を調達していることが分かりますね。
【WACC】株主資本コストとは?
※株主資本コストは計算がやや難しく、計算の仕方も各分析者によって異なります。
自分で計算するのが難しい場合は後述する信頼性の高いページ(楽天証券の企業分析ページなど)に掲載されている値を使うのがおすすめです。
株主資本コスト | |
---|---|
指標分類 | 収益性 |
意味 | 株式での資金調達に必要なコストであり 株主が企業に期待している収益率。 |
計算式 | 株主資本コスト = Rf + β × ( Er – Rf ) |
目安 | 8.8% |
改善方法 | 特になし |
算出に 必要な 財務諸表 |
BS:必要なし |
PL:必要なし | |
CF:必要なし |
株主資本コストとは、企業が株主から資金を調達する際に必要なコストです。投資家が企業に期待する最低限の利回りと理解してもOK。
例えば『200万円投資するから今年は10万円くらいのリターンがほしいな』と言った場合の株主資本コストは5%(10万円÷200万円=5%)となりますね。
では、株主達は各企業にどれほどの利回りを期待しているのでしょうか?実際に計算する際は以下の変数を使います!
株主資本コスト = Rf + β × ( Er – Rf ) |
|||
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変数 | 読み方 | 概要 | なおころが採用中の値 |
Rf | リスク フリー レート |
リスク(ほぼ)ゼロの 金融商品から得られる 期待利回り |
0.017% (国債10年利回りの 5年加重平均) |
β | ベータ | 株式市場全体の動きと 比較した対象企業の 株価変動の大きさ |
各企業のβ値 (平均値は日経225と TOPIXの変化率の差分) |
Er | 期待 収益率 |
投資家が 株式市場全体に 期待する利回り |
7.37% (日経平均の 3年間のCAGR) |
つまり株主資本コストとはRf(国債などほぼリスクが存在しない投資商品から得られる期待利回り)や、Er(市場全体へ投資した場合から得られる期待利回り)と比べて、β(対象企業の株式に投資した場合の変動の大きさ)を評価しています!
βとは簡単に言えば市場全体が1%上昇した時に対象企業の株価が何%動いたかを計測する指標であり、統計学における共分散などを用いて計算します。
ただ、計算が難しいため公的機関など信頼性の高いページから引用するほうが手っ取り早くておすすめです。
以下でなおころがよく使用するページ群をご紹介。気に入ったサイトをご利用ください!
株主資本コスト引用先
さいごに、3つの変数に値を入力することで株主資本コストを計算することができます。ひとつ例を見てみましょう!
- Rf = 0.017%
- β = 1(対象企業の株価は市場全体と同じ動きをする)
- Er = 7.37%
- 株主資本コスト=0.017 + 1×(7.37-0.017) = 7.37%
上記の例では株主資本コストが7.37%ですね。
仮に株主から1,000万円の出資を受けている場合、毎年73万円ほどのリターン(配当など)が期待されていることを意味します!
WACCは負債コストと株主資本コストの加重平均
負債コストと株主資本コストが分かればWACCの完全理解まであと少し!「加重平均」を確認しておきましょう。
加重平均とは?
- 平均する項目の重要度を加味した平均
あなたが日常で使用する単純平均(算術平均)との違いを考えると簡単に理解できます。WACCの計算例を使って考えてみましょう!
WACC簡易シミュレーション(税金考慮なし)
- 負債900万円、株主資本100万円の企業が存在
- 負債コスト1%、株主資本コスト5%
- 単純平均のWACCは(1%+5%)÷2=3%
- 加重平均のWACCは1% × 9/10 + 5% × 1/10=1.4%
単純平均の場合だと、圧倒的に調達コストが安い(1%)「負債」が資産の90%を占めているにも関わらず調達コストが3%と実態よりもかなり大きな値になってしまいます。
一方の加重平均では負債と株主資本の割合も考慮した計算が可能。WACCは1.4%となり、多くの割合を占めている「負債」の調達コストに近い値が算出されました。
究極的に言えば、WACC単純平均でも算出はできますが、加重平均を使うと、負債と株主資本の割合も考慮した「より正確な調達コスト」が算出できると覚えておきましょう!
WACCの負債コストだけ税引後で計算する理由
改めてWACCの定義式を見返したときに負債コストには(1- 実効税率)が付与されていますが株主資本コストには付随していない理由を考えましょう。
WACCの負債コストを税引後で計算する理由
- 利息の支払いは損益計算書(PL)に含まれ、節税効果が働くため。
支払利息は損益計算書(PL)の項目です。決算期には税引後の当期純利益を算出する前に、利息は利益と相殺され、節税効果が働きます。
支払利息があるだけで少し節税になる、だから調達コストから少し割り引いて計算すると言えるでしょう。
よって、節税効果が働く負債コストには(1ー実効税率)を掛けて計算します。
一方で株主資本コスト(株主への配当金など)は損益計算書(PL)に含まれないため節税効果は発生せず。(1ー実効税率)を掛けて計算することはありません。
WACC(加重平均資本コスト)の目安は6.1%
- WACCの目安は6.1%
- 負債コストの目安は0.4%
- 株主資本コストの目安は8.8%
- 一般的に負債コスト < 株主資本コスト
日経225の企業データ(2019)を活用してWACCを計算したところ、平均値は6.1%となりました。
ただ、日経225は日経平均株価を形成する大手企業の集合体であるため、中小企業を分析した場合はもう少し大きい数字が算出されると予想されます(大手企業ほど銀行に強気で交渉できると考えられるため)。
また、一般的に株主資本コストは負債コストを大きく上回ることも確認できました(それぞれの平均値が8.8%と0.4%)。
対象企業のWACCを調査する際は同業種の企業と比較した方が精度は高くなりますが、5〜7%が目安と覚えておくと大きな間違いはありません。
あなたが気になる企業の数字を入力してみましょう。
各企業で大きく異なる有利子負債や株主資本に様々な値を代入してWACCの変化を確認するのがおすすめです!
企業の財務情報を確認する場合、なおころは一次情報となるEDINETかバフェットコードを多用していますよ。どちらも無料ですのでぜひご活用ください!
WACC(加重平均資本コスト)を低くする方法を解説
- WACCは小さい方が好ましい
- 一般的に負債コスト < 株主資本コスト
- 負債を抱えることでWACCは小さくなる
一般的に銀行から借り入れを行わない「無借金経営」は是と捉えられることが多いですが、WACCを使いこなす投資家を相手にする場合はその類ではありません。
負債ゼロの企業にとっては、負債を持つことこそがWACCの良化につながります。実際に借金ありなし両方のパターンをシミュレーションしてみましょう!
WACC簡易シミュレーション(税金考慮なし)
負債ゼロの場合
- 負債0円、株主資本1,000万円の企業
- 負債コスト1%、株主資本コスト5%
- WACC=1% × 0/10 + 5% × 10/10=5.0%
有利子負債を400万円借り入れた場合
- 負債400万円、株主資本1,000万円の企業
- 負債コスト1%、株主資本コスト5%
- WACC=1% × 4/14 + 5% × 10/14=3.85%
以上の様に負債を借り入れた方がWACCの数字が小さくなることが分かりますね。
なぜなら、一般的に負債コストよりも株主資本コストが大きいため、調達コストの小さい銀行からの借り入れを行うことで全体の調達コストが引き下げられるためです。
繰り返しになりますが、WACCは負債の調達コストと株主資本の調達コストの加重平均です。負債が少しでもあると、相対的に値の小さい負債コストに引っ張られてWACCも小さくなりますよ。
もちろん負債を持ちすぎると自己資本比率が低くなるなど財務の安全性に問題が波及します。それらの塩梅を巧みに調整するのが経営者、見極めるのが投資家の腕の見せ所ですね。
WACCが低い上場企業3社を紹介
以下では日経225の企業群において、特にWACCの値が小さかった企業を紹介します。
100点満点の財務分析結果と合わせて確認すると有望な投資先が見つかるかも?ぜひご覧ください!
WACC1.9% 大和証券グループ
大和証券グループ | |
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証券コード | 8601 |
WACC | 1.9% |
財務分析 | 45点 |
WACC2.3% ユニチカ
ユニチカ | |
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証券コード | 3103 |
WACC | 2.3% |
財務分析 | 53点 |
WACC2.4% 住友不動産
住友不動産 | |
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証券コード | 8830 |
WACC | 2.4% |
財務分析 | 59点 |
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WACCとは資金の調達コストを測定する指標 | まとめ
本ページでは企業の資金調達コストを測定する財務指標【WACC】について解説しました。
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